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大阪高等裁判所 平成10年(ネ)3490号 判決 1999年5月21日

控訴人 株式会社ツーリストサンフラワー

右代者代表取締役 萩原英樹

右訴訟代理人弁護士 神田靖司

同 大塚明

同 中村留美

同 大内麻水美

被控訴人 市民オンブズマン豊岡

右代表者代表幹事 加藤信明

右訴訟代理人弁護士 A野太郎

同 福井茂夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  被控訴人は、控訴人に対し、三〇万円及びこれに対する平成九年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

三  この判決は、控訴人の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、三〇〇万円及びこれに対する平成九年一〇月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、神戸新聞但馬版に原判決添付謝罪広告を一回掲載せよ。

4  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  第2項につき仮執行の宣言

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

原判決記載のとおりであるから、これを引用する(但し、三頁五行目の「オンブズマンニュース」の次に「(第二号)」を加え、四頁一行目及び三行目の「配付」をいずれも「配布」と、七行目の「被告ら」を「被控訴人」と、八行目の「記載」を「掲載」と、六頁三行目の「一〇日間、」を「一〇日間実施された」と、六行目の「旅行であり」を「旅行であるとして」と、それぞれ改め、九行目の「市は、」を削り、七頁二行目の「被告」を「加藤ら」と改め、四行目の「釈明を求め、」の次に「被控訴人は、」を加える)。

第三証拠《省略》

第四判断

一  当裁判所は、被控訴人が、前記記事(以下「本件記事」という)を掲載した「オンブズマンニュース(第二号)」(以下「本件チラシ」という)を豊岡市民に広く配布した行為は、旅行業者である控訴人の信用や社会的評価を低下させるものとして、名誉毀損にあたり、控訴人に対する謝罪広告の必要性は認められないものの、その無形の損害は三〇万円と評価されるので、被控訴人は、控訴人に対し、これを賠償すべきものと判断する。その理由は、本件チラシが配布されるに至った経緯及び本件記事の内容について、原判決の認定(八頁一行目から九頁五行まで)を引用するほか、以下のとおりである。

二  すなわち、本件記事は、豊岡市の今井市長らが、姉妹都市の訪問のために企画した海外旅行が、実質的には私的な観光の性格を有するものであり、同市長をはじめとする同市の職員の右旅行代金を、同市の公金から支出したことは違法であるとするとともに、右旅行を手配した旅行社である控訴人については、ひとたび決定した旅行代金を増額した理由が不透明、不可解であるとして、これが「旅行業法に違反するのではないか」という疑念を呈するものであり、すでに別件の住民訴訟の提起が周知となっていた同市民の通常の注意と読み方を基準として解釈すれば、本件記事は、控訴人が、旅行業法による登録を受け、その規制に従うべき旅行業者でありながら、同法に違反して、旅行代金を不当につり上げ、同市の公金から違法に利益を得た事実を摘示していると理解されるのであり、かつ、本件チラシにおいては、その事実が疑念に止まるという体裁をとりながら、被控訴人の幹事として、同市では著名な弁護士である被控訴代理人の一人であるA野太郎が名を連ね、一般にはなじみの薄い旅行業法の違反を問擬していることとあいまって、その真実性が強いことを巧妙に演出しているのであって、本件記事は、控訴人の旅行業者としての信用や社会的評価を低下させ、その名誉を毀損するものである。

そして、本件記事は、不正な行政を監視することなどを目的として設立された被控訴人が、特定の業種、業者を規制する法律(いわゆる業法)に違反する業者の非違を摘示するのであるから、公共の利害に関わるといえないものではないが、その真実性については、何らの主張、立証もない(別件の住民訴訟において、原告らにより、本件記事と同じ内容の疑念が指摘されていたとしても、本件チラシが発行されたのは、その直後のことであり、右の疑念が、すでに公知となっていたということはできない。)

しかして、旅行業法によると、旅行業者は、取引の相手方に対し重要な事実につき不実のことを告げたり、あるいは、掲示してある旅行代金を超えてこれを収受すると、罰金を科されるほか、営業停止などの行政処分を受けることがあるのであり、かかる所為は、旅行業者にとっての「命取り」ともいうべき重大な法律違反であるところ、本件記事は、控訴人が、あたかも右のような非違行為に及んだかのような内容となっているため(《証拠省略》によると、右の旅行代金の増額は、控訴人がいったん競争見積により提示した前記旅行の代金額について、同市の求めにより契約内容に変更が加えられたために、変動が生じたものにすぎず、旅行業法に抵触する行為ではないことが認められる)、大手の旅行業者である近畿日本ツーリスト株式会社の代理店である控訴人は、本件チラシが流布されるや、関係者からの多数の問合わせに忙殺され、正常な業務に支障が生じたことが認められるのであり、控訴人は、本件記事により、その営業に対して著しい影響を受けたと言うべきである。

控訴人の右のような損害は、金銭に評価すると、三〇万円をもって相当とするというべきであり、被控訴人は控訴人に対し、訴状送達の日の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を付加して、右損害金を支払うべきである(なお、謝罪広告の掲載は、本件チラシが配布された地域が、さほど広範囲に及ぶものではないことなどを考えると、控訴人の信用や社会的評価の回復にとっては、必要性がないものと判断する。もっとも、被控訴人が引き続いて発行するチラシに謝罪広告の掲載を命じることも、控訴人の信用等を回復させる方法として、適当であると考えられるが、具体的にその申立てのない本件では、これを命じることは処分権主義に反すると思料される)。

三  よって、右と結論を異にする原判決を変更することとし、主文のとおり判決する

(口頭弁論終結の日/平成一一年三月五日)。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 永井ユタカ 菊池徹)

<以下省略>

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